損害賠償が減額される場合はある?損害賠償の減額事由について
労災事故により、加害者から何らかの被害を被った場合、損害を受けた全額について、損害賠償をしてもらいたいと考えると思います。しかしながら損害賠償には「損害賠償の減額事由」といったものがあります。損害賠償の減額事由としては、過失相殺、損益相殺、素因原因などがあります。こうした減額事由は、損害の範囲や金額を決定する際の目安となります。損害賠償額が減額されるとなると、納得できないという方もいるでしょう。前もってこうした知識を身につけておくことは大切ですので、損害賠償の減額事由について詳しくご説明していきます。ぜひ参考にしてください。
目次
損害賠償の減額事由1:過失相殺による減額
過失相殺とは、労災が発生した際に、雇用主側だけでなく労働者側にも過失があると認められる場合に、過失の割合によって損害賠償が減額されることを言います。労災の場合の過失とは、主に労働者の不注意のことです。
例えば、「決められたルールに従わず安全具を装着せずに作業を行い、怪我をした」場合や、「安全確認をせずに作業を開始して、落下物に衝突して怪我をした」場合などです。こうした怪我等が起こった状況を踏まえて労働者と雇用者側の過失の割合を判断し、その割合に応じて損害賠償が減額されます。
損害賠償の減額事由2:損益相殺による減額
業務中の事故による怪我などの場合、労災保険給付が支給されます。労働者が労災保険給付の支給などを受けている場合、その給付額を限度額として損害賠償額が減額されることを「損益相殺」と言います。損益相殺の対象となるのは労災保険給付のほかに、国民健康保険法・健康保険法に基づく給付金や各種共済組合からの給付金などがあります。
過失相殺と損益相殺どちらも適用される場合は、どのように計算するのでしょうか?
主流となっている計算方法は、まず過失相殺をしてから損益相殺をするという「過失相殺後控除説(控除前相殺説)」です。ただしすべての場合においてこの過失相殺後控除説が採用されるとは限りません。過失相殺後控除説の場合、被害者側が不利となってしまいます。先に損益相殺をし、そのあとに過失相殺を計算する「過失相殺前控除説(控除後相殺説)」のほうが、被害者が受け取る損害賠償額は多くなります。
過失相殺後控除説では、労働者が充分に保護されていないのではないかと議論する余地はあると言えます。減額された結果、自分の受取額に納得できないという場合は、法律の専門家に相談するというのも一つの方法です。特に次項で説明する「素因原因」については個別に具体的な判断が重要となる減額事由ですので、あわせて相談するのが良いでしょう。
損害賠償の減額事由3:素因原因による減額
労災が起きた原因の一つとして労働者の身体的、精神的な要因が認められる、またはそういった素因によって損害が拡大したとされる場合に損害賠償額が減額されることを「素因原因」と言います。例えば労働者に、脳や心臓疾患などの疾患や、うつ病などの精神疾患があり、それが原因で労災が起きたと認められる場合は賠償金が減額される可能性があります。
しかしながら、こうした疾患があるからと言って必ず素因原因として認められるわけではありません。素因原因の場合は特に個別具体的に判断することが重要で、同じ基礎疾患があったとしても素因原因として認められる場合とそうでない場合があります。
損害賠償の減額事由に当てはまらないケースとは?控除されない補償給付の種類について
業務中の事故などにより後遺障害が残ってしまった場合には、「障害補償年金」又は「障害年金」が支給されます。また、業務中の事故などにより労働者が亡くなった場合には、遺族に「遺族補償年金」又は「遺族年金」が支払われます。
「損益相殺」の項目で説明した通り、労災給付を受け取っていると、その支給額を限度として損害賠償額が減額されます。年金給付についても、「すでに支給された給付額」、「支給が確定した給付額」分は、その金額を限度として損害賠償額が減額されます。「支給が確定していない将来の分の年金給付」は、基本的には控除されません。しかしながら年金給付を受ける権利が消滅するまでの間、一定の限度額までについて、損害賠償について加害者側が支払いを保留にすることができるという調整規程もあります。
控除の対象とならないものはほかに、労災からの特別支給金、加害者が支払った見舞金や生活保護法による給付、雇用保険からの給付、税金などがあります。
過失相殺、損益相殺、素因原因など、損害賠償の減額事由は個別に判断される
損害賠償の減額事由である過失相殺、損益相殺、素因原因についてみてきましたが、いずれも必ず減額されるというものではないことが分かりました。しかしながら、業務上の災害については過失割合について争うケースが割合的には多いと言われています。過失割合は被害者側に立証する責任があります。素因原因であれば、会社側は労働者の素因と労災の因果関係を証明できなければなりません。
労災のそれぞれのケースによって減額が認められるかどうかは異なりますので、ご自身のケースの場合はどうなのか?については、法律の専門家などに相談するのが良いでしょう。こういった減額事由があるということを知った上で、加害者側から損害賠償の全額を認めてもらえなず示談を求められた場合は、示談に応じる前に弁護士に相談してみると良いでしょう。
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